病的肥満と減量手術+糖尿病の外科治療

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米国機関SRCから卓越した減量治療センターと認定・・台湾の義大医院

高雄(カオシュン)紀行2・・アジアパシフィック地域で初の快挙

Designated as Bariatric Center of Excellence by ASMBS/SRC

cruisenight cruise2009年10月下旬Chih-Kun Huang(黄 致錕)から久しぶりにemailが届いた。彼は台湾南部の港湾都市、Kaohsiung(高雄)で腹腔鏡下肥満手術(減量手術)を数多くこなしている若き外科医だ。世界で初めてシングルポートの腹腔鏡下胃バイパス手術をした凄腕でもある。6月に高雄を訪ねたときに彼の卓越したテクニック、チームはいわゆるプロ集団そして、素晴らしい設備、減量外科にとって本当に何でも揃っていることに感心したのを思い出した。その2ヶ月後の8月上旬には台湾南部に大型台風が接近して高雄は大規模な水害に見舞われ多くの人々が犠牲になったことは日本のメデイアでも放映され記憶に新しい。メールを送ったところ、やはりかなりの被害らしく傷ついた人々を救うために最大限の努力をしているということだった。そのためか8月下旬にパリで開催された国際肥満外科学会には珍しく姿を見せなかったので心配していたところだった。メールの内容は『アジアパシフィック地域で初のInternational Center of Excellence をアメリカの機関であるSRCから認定された、アメリカ以外では世界で3番目に認定された』という喜びの声だった。彼の技術とスタッフ、そして設備からすれば、やっぱりやったか、というのが率直な感想だった。もちろんすぐにお祝いのメールを返した。そして年も暮れそうな12月、2010年の1月にセンターのオープニングセレモニーとフォーラムを開催するので出席できないか、との招待のメールが舞い込んだ。西はインドのムンバイ、東は日本の東京まで彼のアジア地域の減量・代謝手術の分野で活躍している面々を招待したようだ。僕はまだ、そんな立場にはないと思ったが何かの縁でもあるし四谷メディカルキューブの笠間和典とともに日本代表として参加することにした。

ssl sihkunTape Cut2010年1月19日、30分遅れで成田国際空港を飛び立ったBoewing767機は約4時間20分の飛行の後、台湾・高雄国際空港に着陸した。前回は台北から新幹線で高雄へ訪れたが今回は直接高雄へ飛んだのでこの空港へは初めてのLandingであった。すでに現地時間でも午後10時を過ぎていた。大きく新しい清潔なターミナルビルを出ると1月とは思えないほど心地よい気温であった。Chih-Kunが手配してくれた迎えの車にKazu(笠間和典)と乗り込んだ。夜の高雄は人工的な光に満ちあふれていたが、街灯には傘が施されており光が天に向かわないようにしていた・・きっと街の灯りで星空が見えなくなるのを防ぐためなんだろうと思い環境への配慮をしていることにとても感心した。また、多くの街灯が白ばかりではなく鮮やかなブルーの光を放っていたのは印象的だった。(後でChih-Kunにあの青い街灯はどういう意味か聞いたところ青は高雄は海で発展した町なのでその海の青を表しているとのことだった)そうこうしているうちに、ホテルへ到着した。なんということだろう・・・用意してくれたホテルは高雄で一番高層の85階建の建物であった。つい最近まで世界最高の高さを誇っていた台北101に次いで台湾で2番目に高いというそのビルの19階のフロントでチェックインして、67階の部屋に入り窓の外を見ると港湾や街の灯りがとても美しく旅の疲れも癒された。

Mr I-ShouI-Shou Lin,Chih-Kun Huang翌1月20日、ホテルから専用のバスでChih-Kun Huangの勤めるE-Da hospital(義大医院)へと向かった。病院の玄関前でバスを下りると熱烈歓迎ムードで花道が作られていてちょっと(かなり)びっくりした。出迎えたスタッフが僕たちのスーツの胸にブーケを刺したかと思うと、病院のエントランスホールにセットされた祝賀会場に案内してくれた。次々と招待客が到着して会は開始された。驚いたことに病院の通常業務は続行中らしく多くの外来患者さんと思われる人々も物珍しげにその様子を見つめていたのだった。伝統的な獅子の舞いのあとテープカットや挨拶がなされそしてInternational Center for Excellenceの認定のボードがSRCのChirman であるNeil E.Hutcherからこの施設のオーナーであるi-shou Lin氏、そしてChih-Kun Huangへと手渡された。そして参加者から次々とお祝いのメッセージの言葉があった。言語はすべて英語だったので我々にも内容は分かるものだった。

セレモニー終了後、Chih-Kunを始めとする国際減量中心(International Bariatric and Metabolic Center)のスタッフ数人が病院内のツアーに案内してくれた。半年前にも訪れていたのでそれほど驚くことはなかったがやはり素晴らしい施設だと思った。しかも、案内する人、中で働いているスタッフがみんな笑顔で出迎えてくれて、僕の知る限り全てのスタッフが普通に英語で対応できていることは日本の常識からするとカルチャーショックであった・・何人かは日本語が堪能であったことも付け加えておく。案内してくれた女性はもっぱらこの案内をしているらしく、『どれくらいの頻度でこの施設の見学に来るんですか?』と訪ねたところ『週に2,3組は見学に来ますよ』とのことだった。一通り病院内を見学した後、建物の屋上にあるスカイパークでランチを摂った。

discussDiscussion Kazunori Kasama午後からは祝賀会ムードは吹っ飛んで、主に学術的な話題に切り替わった。予定通りアジア地域の肥満手術(減量手術)、代謝手術、Centers of Excellence(International Center of Excellence:ICE)等についてのフォーラム(会議)が開催された。
まずはアメリカのSRC(Surgical Review Corporation)のChairmanであるNeil E. Hutcher(彼自身減量手術に携わっている外科医です)から”ICE”についてこの認定制度がどのような経緯で誕生することになったのか、目的は何なのか、ICEに認定されることによってどのような効果があるのかについての詳細なレクチャーがあった。

そもそもそのICE(Internatilnal Center of Excellence)というのはどういった認定制度なのだろうかをここで簡単に触れておく必要がある。減量手術は2008年現在、報告されているだけでも世界で年間34万件が施行されている。アメリカがダントツに多く年間26万件も施行されている。1990年代後半には肥満の急激な増加に加え、腹腔鏡手術の発展により安全で効果の高い減量手術が行われるようになると、患者さんはその手術に殺到することになった。毎年毎年手術の数は指数関数的に増加していったのだ・・・。その結果何が起こるだろうか・・!?。手術が多くなれば外科医や施設での経験数が増えて手術が上手に早く安全にできるようになる・・?。そう、個人レベルでは一般にそういうことがいえるだろう.でも全体で考えると『流行のオペだから』、『患者が希望するから』、『金になるから』などの理由で十分な準備もしないでオペを始める施設、医者が出てくることは容易に想像できる。(日本discussDiscussion Prof.Lee ,Dr.Hutcherで言えば、目のレーシック手術、歯のインプラントなど)手術の数は増えたが、治療成績の悪化、合併症率の上昇、つまり『質の低下』が懸念されるのだ。実際このことは今世紀に入ってアメリカで現実のものとなり大きな問題となったようだ。2003年を減量手術の世界では” A Year of Crisis”と呼ばれている。予想されたように合併症は増え、成績は悪化し、そして保険会社はその手術をカバーしなくなった(保険料の支払いを拒否する)。そのような危機を打開するには、そう、外科医を始めとしたスタッフ、そしてその施設がきちんとした減量手術が行えるQuality(質)を備えているのかを検証する第三者機関による認定が必要になる。その機関のが『SRC:Surgical Review Corporation』である。当然、肥満外科学会や関連する企業などとは利害関係を一切排除した独立した機関として創設されている。『卓越した施設・外科医(COE)』であると思う人はSRCに審査を依頼し、数々のハードルをパスすればいいということになる。そしてCOEに認定されることで患者さんからの信頼が得られると同時に医療保険会社も保険料を支払うということになる。つまりきちんとしていない施設や外科医は淘汰されてしまうということになるわけだ。Dr. Hutcherも言及していたが,認定されるにはとても努力をする必要があるが、認定される前とその後では治療成績も明らかに改善するという。質の高い施設は認定されるように努力することでさらに質が向上するということである。これは、患者さんにとっても保険会社を含む社会にとっても本当にいいことだと思Dr.HuangChih-Kun Huangう。そして、アメリカだけでなく世界中でこの手術が『流行』してくると世界中で『2003年のクライシス』と同じ現象が起こることは容易に想像できる。だから、この分野の健全な発展のためにアメリカ以外の国で認定制度を行うということがICEということになる。そして、Chih-Kun Huangと彼の勤めているInternational Bariatric and Metabolic Sugery Center(BMI center)は米国以外の世界で3番目(ブラジル、イギリスの施設に次ぐ)、そしてオーストラリアを含むアジアパシフィック地域において初めてのICEと認定されたということだ。

friendsKasama,Huang,Inamineかなり脱線したが、Dr. Hutcherのレクチャーの後は当事者であるChih-Kunから”Journey from beginning to the Center of Excellence”というタイトルでこれまでのアジアパシフィック地域の減量手術の歴史などの総論的なことや、彼の施設がICEに認定されるに至った道のりなどを話してくれた。ここに至るまでは彼の外科医としての才能だけでなく、有能なスタッフをまとめ上げる力、そしてその環境を構築していく弛まない努力があったことを再確認した(余談だがなんと彼は僕よりも後に減量手術を始めたのだった・・今は年間350件ほど・・恐るべし)。
次に彼女自身も減量手術経験があるBaratric nurse、アメリカのMrs.MargaretよりICEに認定されるためのノウハウについて詳細に紹介があった。そして、インドのムンバイから参加したインドを代表するBariatric SurgeonのMuffazal Lakudawala(Muffy)によるインドの肥満・代謝手術についてのプレゼンがあった。中国と並んで急激な経済発展を遂げるインドも社会環境の急激な西欧化によって例に漏れず肥満・糖尿病が急増しており、社会的な状況に適した手術についてインプレッシブなプレゼンが行われた。
Dr HuangICE plate and Huang次にKazunori Kasama,Tokyo Japan(笠間和典、日本、東京) からは日本人の特性にフォーカスした減量手術と代謝手術(主に糖尿病を治療する外科治療)の素晴らしいプレゼンが行われた。学会など日本の社会的背景、胃癌のリスクが高いといった背景、西洋人に比較して肥満度の割に糖尿病が多いという背景、そして、糖尿病をコントロールするにはどのような指標を基にどの手術方法(Sleeve or bypass or both?)を選択すればいいのか、など科学的データに基づいて明快に解説してくれた。
さらに、シンガポールのJimmy Soからシンガポールの減量・代謝手術の現状・未来について、香港のSimon Wong、Wilfred Mui,上海のJiang-Fan Zhu、と次々にそれぞれの国や地域での減量手術・代謝手術の現況について数々の興味深いプレゼン、そして活発な熱いディスカッションが時に10分程度のcoffee breakeをとりながら夕刻まで断続的に続いた・・台北からはアジアで最も減量・代謝手術について名実ともに世界の第一人者の一人である国立台湾大学のWei-Jei Lee教授も駆けつけてくれて多くのコメントをしてくれた。

そして、フォーラム終了後は黄昏が迫っている高雄の街を参加者全員バスに乗って移動した。愛河の河口付近からクルーザーに乗り込んで海上での食事そしてアトラクションを楽しみ多くの人たちと親交を深めた。幸い天気にも恵まれ満点の星空が見られた。クルーザーの甲板でnight marketnight market at Kaohsiungの風は1月とは思えないほどの心地よさであった。亜熱帯気候であるこを考えると冷たくないというのは当たり前ということにもなろうが、決して湿度が高くてムンムンというわけでなく本当に快適であった。真っ黒な洋上から見える高雄(Kaohsiung)の街の夜景は超高層ビルの窓から見るそれとはまた違う表情をしていたのも印象的だった。

アジアパシフィック地域は実は世界の人口の60%を占める地域である。21世紀の100年でこの地域が世界のminorityからmajrityへと変貌していくに違いない。20世紀は確かにヨーロッパ、北米の科学技術の革命的な発展が世界を牽引してきた。しかし、今世紀はアジア、そしてブラジルを始めとする南米が長い眠りから覚めてそのポテンシャルを目に見えるエネルギーとしてまぶしい程放出し始めている。欧米諸国が作り上げてきた幸platememorial plate fr.Chih-kun福の価値観というものがすでに曲がり角にきている気がする。その豊かさを具現化したファーストフード、オートモービル、コンピュータが中国やインドそしてその他の地域にもたらした生活の急激な変化によって肥満、糖尿病といった疾患を急増させている。そのクライシスは個人の問題だけではなく社会全体の活動をも蝕んでいくことだろう。20世紀版の豊かさを実感し始めた多くの人々はまだ説破詰まった現実としてその危機的状況には気づいていない・・。僕らはその本質をとらえ、その解決方法を地道に模索し信念をもって実践していくしかない。長く続く戦いのために僕らは国境を越えて連携し、そのことに気づいている外科医として今できることをひとつひとつ積み上げていくだけだ。次回2011年2月北海道で国際肥満外科学会のアジアパシフィックのミーティングが予定されている。僕らはそこでの再会を約束して高雄を後にした。
(2010.1.22)