病的肥満と減量手術+糖尿病の外科治療

アスタリスク 人生の道標

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surgical therapy in diabetes

減量・代謝手術の最前線 国際肥満代謝外科学会2009

最も安全な手術を追求するのではなく、最も効果的な手術を安全に行うようにしていくべきだ・・MAL Fobi (IFSO president)

世界の肥満・減量外科医がパリに集結

この*(アスタリスク)のサイトで何度も紹介しているように高度肥満(病的肥満)は先進国、新興国、途上国を問わずこの地球上で急激に増加しており人類の健康を著しく蝕んでいる。体重がオーバーすることを契機に糖尿病、高血圧、高脂血症などの代謝疾患やガンなどの悪性疾患の頻度も増加することがわかっcongre de parisパリ国際会議場てきた。これは近年我が国でもよく知られるようになってきたメタボリック症候群そのものである。肥満→糖尿病・高血圧→慢性腎不全・動脈硬化→心筋梗塞・脳梗塞・血液透析・失明・下肢壊死・・・。肥満を始まりとするこのような恐ろしい負のカスケードは個人の健康の問題だけではなく社会全体で負担する莫大な医療費にもつながっている。もはや肥満は個人の問題ではない。社会全体どころか地球規模での大問題と認識されている。そのような状況の中、第14回国際肥満外科学会(IFSO2009)が世界で最も美しい都市のひとつであるフランスの首都パリで開催された。第1回は1996年にチェコの首都プラハで開催された。そのときには世界からたった268人の参加に過ぎなかったが、昨年アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでの会議には1243人の参加があったとのことである。今回の参加人数の公式な発表はないが開催地がパリであることや年々肥満手術の著明な増加があることからおそらく前年を大きく上回っていることは間違いないであろう。

opening ceremonyオープニングセレモニー2009年8月24日中部国際空港を離陸したB777機は12時間の飛行後、曇り空のシャルル・ド・ゴール国際空港に着陸した。空港を出て車でパリ市内に着いた時にはあいにくの雨が降り出した。学会場はパリ市の西端に位置するParais des Congres(パリ国際会議場)で開催されることになっていたので日本で予約しておいた会場近くの小さな安いホテルにチェックインした。多少のジェットラグ(時差ぼけ)で頭がぼんやりしていたため暫しあたりを散策してみることにした。驚いたことにあの凱旋門やジャンゼリゼ通り、コンコルド広場やエッフェル塔まで徒歩で行くことができるくらいだった。そして翌日には日本から1日遅れで到着した洋介と合流した。

8月26日からいよいよ本番である。そもそもの目的は減量外科・代謝外科における世界の流れをつかむこと、それらの知見を日本に持ち帰ることである。医学の知識や技術は日進月歩であるため最新の医療をするためには常にそれらをアップデーramos kelvinRamos,Higaトする必要がある。その殆どの知識はいずれ医学論文となって出版されるので日本にいてもいつかはその知識が得られる。別にスタジアムに行かなくても翌日のスポーツ新聞を見れば昨夜のサッカーや野球の試合の結果が分かるようなものだ。でも、それだと現在起こっていることの空気感というか、リアリティーが伝わってこないのだ。紙は確かに情報を詳細に正確にそして時をこえて伝える事の出来る優れた媒体である。しかし、最先端の医学研究をしている人たちの顔やフィロソフィーまでは紙面では表現できない。知識、技術、哲学は生の人間が作るもの・・紙はそれを肌で感じるのには不向きな媒体なのだ。先頭をきって走っている人たちの目指すところはどこなのか、現在分かっていることは何なのか、現在議論になっているいわゆる”争点”はどんなところなのか。それを知るには多くの研究者の生の声を聞くに限ると思う。
effel tower クリックすると大きくなります 初日は終日ASMBS(American Society for Metabolic and Bariatric Surgery)つまりアメリカ肥満・代謝外科学会主催の肥満外科、代謝外科に関する座学を受講した。現在世界中で行われている肥満手術・減量手術に関する様々な角度から、のべ32人に及ぶこの分野のエキスパートがレクチャーを行い各分野ごとの活発なディスカッションが行われた。LAGB(腹腔鏡下調節性胃バンディング術)に関するトピック、LSG( 腹腔鏡下袖状胃切除術)に関するトピック、GB(ガストリックバイパス)に関するトピック、BPD(胆膵路変更術・十二指腸変更術)に関するトピック、新しい技術(NOTES、Single Incision,etc)に関するトピック、減量手術の合併症のトピック、減量手術のRevision Surgery(再手術)のトピック、そして減量手術(肥満手術)の長期成績に関するトピックなどのレクチャーが断続的に行われ気がつくとすでに夕刻になっていた。とはいっても夏のパリの日は長く21時まで太陽は沈まない。夕方6時とはいってもまだ日本の午後3時くらいの感覚だった。

la seineラ・セーヌ全ての講義が終了したところで、いよいよ2009年のIFSO(国際肥満代謝外科学会)のオープニングセレモニーが華やかに執り行われた。その後みんなで専用のバスに乗り込みパリの軟らかい傾きかけた西日に優しく照らされたパリ市内を横切ってウェルカム・レセプションが行われるLes Pavillons de Bercyへと向かった。どれくらい走っただろう・・バスを降りるとそこはもう別世界であった。突然映画の中のおとぎの国にスリップしたかのような錯覚に陥った。次元の違う演出に西欧の歴史の重みを感じた。ボルドーの赤ワインを片手にフランスの美味を楽しみながら肥満外科手術の世界の”Super Star”がすぐそこにいる。あの人こそがかの有名な○○さんか・・・。Yosuke(関 洋介;四谷メディカルキューブ)とともにいろいろな人とsmall talkを楽しんだ。僕ら外科医の仕事はメスに代表される手術機器を使って手術で病気を治すことだ。でも、本に書いていないちょっとした知識やヒントが大きな力になる。どん欲なほどの向上心が必要だ。本や論文には書いていないこともこのような場所では気軽に教えてくれる。人類の経験を自分のものにすることが最終的に目の前の患者さんのメリットになる。このような場所ではいわゆるsocial skillがものを言う。手術の技術のためにはそういった人と人とのコミュニケーションの技術がとても大事だということをあらためて感じた。そうこうしているうちに”おとぎの国”での時間はあっという間に過ぎていった。

 さて翌日からはいよいよ学会の本番が始まった。減量手術、代謝手術に関連する多くのテーマの研究発ifso course.jpg表があった。多くのKey Note Lectureあり、一般演題ではスライドを使った口演であったり、ポスターを使った展示だったり、手術手技を伝えるビデオであったりといろいろな国のいろいろな手技や最新データ、フィロソフィーに触れる絶好の機会であった。もちろん度肝を抜くような革命的な発表はなかったものの、世界中の多くの研究者によって少しづつ積み上げられたデータが年々大きな医学上の揺るぎない真実の結晶となっていくのを目の当たりにするのはとても感動的だった。ひとつのテーマに関するディベートの場もいくつかあり本当にエキサイティングだった。とくに、オーストラリアのJohn Dixonらの胃バンディング術とフランスのDavid Noccaらの袖状胃切除術(スリーブ)との対決?はまるでK1グランプリでも見ているかのような緊迫感や熱気にあふれていた。第一人者としての意地とプライドのぶつかり合いは本当に目を見張るものがあった。日本は高度肥満の割合が諸外国に比較して少ないため減量手術に関しては残念ながら世界で最も経験の少ない国のひとつとなっている。そのため今回の学会では日本からの演題は関洋介先生の口演のみであった。今後、我が国でも急速に高度肥満、肥満に関連する代謝疾患(糖尿病など)が急増していくことは疑いのない事実であるので今からきちんとしたグローバルスタンダードを身につけておく必要があると思っている。その時になって慌てても手遅れとなってしまう。外科の技術や知識は一朝一夕で構築できるほど生やさしいものではないからだ。

学会が終わってからYosukeやKobayashiさんたちとモンマルトルの丘に登ってみた。そこは多くの著名bouvuoneな芸術家たちが愛しそして暮らした場所で、その小高い丘からはパリ市内が一望できる。すでにあたりは暗くパリの灯りが宝石箱のように輝いている。ライトアップされたエッフェル塔が放つ光はとても優しく幻想的だが威厳に満ちてもいた。カフェに入りシャンパンで乾杯しながら日本のバリアトリック(減量外科手術)について多くの夢を語りあった。きっとフランスが生んだ、またはフランスにやってきた多くの思想家や芸術家、哲学者、政治家、科学者はこうしてカフェで夢を語り合ったに違いないと思う。何故だかわからないけれどもカフェが持っている空気は何かを生み出すパワーがあると感じた。日本のIZAKAYA(居酒屋)はどちらかというと何かを作り出すところではなく溜まった悪いガスを抜くという役割であるように感じるがパリのCafeは何かを造り出す場所・・そんな風に感じたがそれが何故なのかは僕自身にもわからない。パリの町並みは本当に美しい。多くの建造物(というより彫刻)が石で造られそれらの殆どが対称に置かれていてこの国の人たちの美意識とこだわりがそこにはある。多くの車が走っているメインのストリートでさえ石畳だ。ガタゴトと大きな音と振動を立てながら車が走っていく。日本ならさっさとアスファルトに張り替えているはずだ・・。古いものを愛する気持ちがCafe parisCafe (Yosukeと)強いのだろう・・でも、パリにはあの鉄骨で出来たエッフェル塔やルーブル美術館のガラスのピラミッドに代表されるように、必要とあらば大胆に新しいものを作る勇気もある。しかも新しいものを古いものにとけ込ませるセンスをも持ち合わせている。また、あの華やかなシャンゼリゼ通りからつながるコンコルド広場・・この場所でルイ16世やあのマリーアントワネットをはじめとした数千人の公開処刑が行われたという。新しいものが出て来てそして必要とあらば革命というある意味残酷なこともここでは行われた。人類の歴史はきれい事だけでは済まないのだ。これはある意味、医学の歩みとも類似するかもしれない。
 現在世界で急増する肥満と糖尿病・・これらの治療はいままさに革命を必要としている。大胆に新しいことを導入する勇気が必要かもしれない。肥満、糖尿病などの疾患はこれまで『内科的疾患』とされ治療されてきた。食事療法、運動療法、行動療法、経口血糖降下薬、インスリン・・・これらの無血の治療は確かに平和で受け入れやすい。しかし、コントロール出来なかった時に待っている厳しい現実から目をそらすことは出来ないだろう。時が経つにつれ徐々に体は合併症で蝕まれ患者さんは肉体的、精神的に苦しめられる。そして発生する莫大な医療費(たとえば肥満→糖尿病→慢性腎不全→透析となった場合、一人あたり少なくとも年間500万円、20年で1億円の血税による医療費が発生するといわれている)・・Louvre Musiumルーブルそれが現実だ。もし、本当に観血治療である手術によって高度肥満や糖尿病を治癒させることができるのであればそれは革命といえるだろう。必要であればこれまで先達の努力のもと長い時間をかけて確立されてきた"伝統的"な『内科的治療』に新しい『外科治療』を勇気をもって導入し、そしてそれらを調和させることが必要だと思う。それは伝統的なパリの町並みにエッフェル塔やガラスのピラミッドを調和させたのと同じくらいに大変なことであると思う。いったいどのような症例にどのような手術が適切なのか?その答えを見つけるために世界中から僕らはここに集まった。多くの研究者が持ち寄った小さな真実の水滴がやがて小川となりそしてセーヌ川のような雄大な流れへとなっていく。いま、まさに作り上げられようとしている糖尿病治療を根底から変える代謝手術(metabolic surgery)というこの革命的治療法が市民権を得る日はそう遠くはないはずだ。

(2009.9.1)