病的肥満と減量手術+糖尿病の外科治療

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surgical therapy in diabetes

糖尿病が手術で治る?・・21世紀に奇跡は起こるのか・・・

2型糖尿病に対する外科的治療の可能性

糖尿病のない人生への挑戦  hope less or hopefull

Times SqpuareTimes Square2008年9月15日から2日間、ニューヨークにおいて第1回目の糖尿病を手術で治療するという全く新しい概念の国際ミーティングが行われた。まさに世界の中心地といってもいいであろう、マンハッタン・タイムズスクウェアのマリオット・マーキスホテルの会議場には世界中から、実に1000人以上が参加したとのことだった。いったいこの一見非常識ともいえる会議になぜ、これほど多数の医療関係者が集結したのだろうか?この会議は"Interventional therapies for type 2 diabetes",直訳すると、『2型糖尿病に対する介入治療』つまり、手術で糖尿病を治療しようというのだ。この会議のキャッチフレーズは『糖尿病とともに生きる人生についてではなく、糖尿病の無い人生について』である。どういう意味だろう・・。つまり、我々の常識では『糖尿病は発症すると決して治ることのない進行性の慢性疾患』であり『治すことは容易でないので糖尿病をコントロールすること』が治療目標であった。そのあまりにも手強い『内科的』疾患を何と『手術で治療』しようというのだ。百年以上もかけて内科的なアプローチで戦いを挑み、完全勝利を得られなかったこの強敵に、全くの素人・新参者である外科医が挑もうとしているのだ。このFrancesco RubinoFrancesco Rubino会議の仕掛け人はイタリア出身の若い外科医『Francesco Rubino』(写真)である。

そもそも、なぜ手術で糖尿病を治そうという発想になるのだろうか?その前に、現在までの常識を整理してみよう。糖尿病というものは発症してもその初期にはなんら症状はなくゆっくりと時間をかけて体の隅から隅まで蝕む恐ろしい病気である。腎臓や網膜、神経、そして血管をはじめとした全身の重要臓器がゆっくりと破壊され不可逆な経過をたどってしまう。時には腎不全で血液透析を必要とし、ときには網膜症で失明し、ときには動脈硬化で心筋梗塞、脳梗塞、下肢の虚血による切断・・・。コントロール不良の糖尿病の患者さんがたどる悲しいコースである。そのためこの疾患を"Hopeless Disease"(望みのない病気)とよぶ人たちもいる。糖尿病はヒポクラテスの時代のはるか昔から『尿が甘くなる病気』として知られていた。その原因として膵臓が何らの役割を担っているということがわかったのは比較的新しく1889年リトアニア出身のドイツ人医師ミンコフスキーが犬の膵臓を摘出したことで糖尿病になることを発見、1901年という20世紀の初めの年にカナダのバンティングが『インスリン』という血糖をコントロールするホルモンの抽出に初めて成功して糖尿病治療は新たな局面を迎えた。それから100年余り、『糖尿病といえばインスリン』という常識が定着した。糖尿病と言えばインスリン、インスリンといえば膵臓・・metabolic effectMetabolic Effectそう、糖尿病は膵臓の病気なんだ、膵臓の不調でインスリンの出が少ないからインスリンを作って注射をすればいいじゃないか。それは部分的には正解であった。ただ、現在糖尿病の多くを占める『2型糖尿病』は基本的にはインスリンの注射は必要ない。なぜならインスリンは膵臓から血液中に十分に供給されているからだ。その後の研究で『インスリン抵抗性』という概念がでてきた。つまり、インスリンは十分膵臓から分泌されているのに血糖が高い・・・、つまり、体がインスリンへの反応が悪くなっている状態である。この場合は血糖も高いのにインスリンも高い・・だから基本的にはインスリン注射は本道でない。では2型糖尿病はどうすればいいのか・・?数々の研究でどうも、この『インスリン抵抗性』の元凶は『内臓脂肪の蓄積』と関連していることが分かってきた。ということは”2型糖尿病は体重を落とすようにすればいい”。そうすれば、内臓脂肪が減少してインスリン抵抗性が減弱、そして体がインスリンによく反応するようになって数々の糖尿病に起因する合併症を減らすことができる。そう、2型糖尿病にはいわゆるダイエットが重要なのだ、適切な食生活、適度な運動、それこそが2型糖尿病治療の王道である。それでも、なかなか体重コントロールが上手くいかない、あるいは上手くいっても血糖のコントロールが悪いときは内服薬で血糖をうまくコントロールしたり、時にはインスリンを使用したりする。血糖そのものが体を破壊するわけではないので、血糖をコントロールすることが目的ではなく『合併症発生を最小限にすること』が糖尿病治療の原則である。ところが、『分かっちゃいるが、なかなかできない』ことは人生の中では日常茶飯事である。生活習慣が原因で起こったとされる糖尿病を生活習慣を改善して改善させることは現実的には容易なことでない。そのような訳で、現在でも多くの人々が、糖尿病に苦しめられ、そして命を失っているという現状がある。

 さて、それでは、なぜ、ここに来て手術で糖尿病を治そうという話が出てきたのだろうか?よく知られているように多くの重要な医学上の発見は偶然起こっている。先程の犬の膵臓を摘出したら尿に糖が多くなったことや、今や感染症の治療に欠かせない抗生物質の発見(フレミングのペニシリン発見)等は予期しなかった偶然の産物であった。「・・手術で糖尿病を治療するというからにはきっと膵臓を切ったり貼ったりするんでしょう・・えっ、ちがう?・・じゃ、インスリン抵抗性を低くするために内臓脂肪を吸い取ってしまうとか?」残念ながらそれらは正解ではない。糖尿病を治療できる可能性があることが知られている方法は、胃や腸に外科的処置を加えることだ。それは、他の重要な医学的発見と同じように、偶然発見された。1950年代くらいから高度肥満の患者さんに対していろいろは減量手術が行われてきた。胃や小腸を手術することによって糖尿病が良くなる事実を多くの肥満外科医は経験していた。「胃を小さくしたり、小腸を短くして栄養吸収障害を起こさせるのだから、体重が落ちるし、それに伴って、内臓脂肪も減るからインスリン抵抗性も改善する・・・糖尿病が良くなることはあたりまえだねっ・・」という結論になりそうだが、どうもそうではない。なぜなら、「高い確率で糖尿病が治ってしまう」のだ。糖尿病は一生治らない病気って医学部では教えているし、多くの医者はそう信じている。治るのではなく、コントロールされているのでしょ?というかもしれない。でも複数の研究は減量手術を受けた糖尿病患者さんの80%が治療が不要になるという事実を示してる。それと、驚くべきことに多量のインスリンを使用せざるを得なかった患者さんは多くの場合体重が減る前に耐糖能が改善する。体重が減るのはせいぜい月単位のスピードなのに、耐糖能は数日で改善する。インスリンを100単位以上注射していた人が、胃バイパス術後3日からそこらでインスリンが不要になったという報告は後を絶たない。これは何かとんでもないことが体の中で起こっていると肥満外科をしている人たちは思っていたが、いったいどういったメカニズムなのか・・?までは追求できなかった。1995年ポーリーは外科の学術雑誌で圧倒的に信頼性の高いAnnals of surgeryという雑誌に「糖尿病を治す最も効果的な治療が手術だなんて、いったい誰が考えただろうかね!?」というようなユニークなタイトルで歴史を切り開く論文を発表した。そして、今回の集会のaudience of conferenceAudienceプレジデントであるFrancesco Rubinoは胃バイパス術、十二指腸バイパス術などの本来減量を目的とする手術でなぜ、糖尿病が改善というより「治癒(治ること)」するのかを糖尿病のラットを用いた実験で示した。そのメカニズムはこの文面でとても伝えられるものでもないし、まだ、分かってないことが多いのでここでは示さないが、一言で言えば『糖尿病は消化管になんらか機能の不具合がありおこる可能性がある』ということだ。糖尿病のメカニズムがが膵臓から内臓脂肪、そして消化管そのものに何らかの秘密があるというふうに進んできたのだ。少しづつではあるが、ブラジルやインド、台湾などから減量治療ではない、ラットでない人においての糖尿病の外科的治療の結果が報告されてきている。まだ、研究的な治療の域を脱しないとはいえ予想通り良好な結果を出しているとだけ報告しておこう。

 これは人類にとってものすごく重要なことだと思う。WHOによると、糖尿病は現在世界で2億5000万人いて、毎年380万人の人が糖尿病が原因で亡くなっている、つまり世界のどこかで10秒に1人が糖尿病に関連して死を迎えているということになる。日本国内でも2006年の段階で830万人、その予備軍はなんと1490万人いるとされ今も急増している。それは、個人の健康上の大きな問broadway theaterBroad Way Theater題でもあるが国家レベルでもものすごく大きな問題である。糖尿病に関連して増加する国民医療費をどうまかなっていけばいいのだろう・・・。もし、腹腔鏡でおなかに1cmそこらの切開をおいて消化管をつなぎなおすだけで糖尿病が治せるのなら、それは夢のような話だ・・多くの人が幸せになれる。今回、世界中からニューヨークに集結した多くの研究者はそのような夢を見ていただろうし、そしてもしかしたらそれとほぼ同じくらいの参加者が懐疑的・否定的だったかもしれない。だからこそ、本当のこと、普遍的な真実を求めて、最新の科学的に証明できる知見を求めて人々は集まり議論を交わす。人々の幸福のために国境や言語、社会的立場の壁を超えて多くの人に一体感があった。もちろんすぐに結論がでるはずもないが・・。2日間の学会のために4日間の休暇をとり、ニューヨークまできて本当に良かったと思った。日本からはシンポジストとして特別に招待され日本の糖尿病についてプレゼンしてくれた東京大学内科教授の門脇孝先生の他、日本で最も多くの減量手術を行っている四谷メディカルキューブの笠間和典先生、オーストラリアで多くの減量手術を経験してきた大阪府立成人病センター(現・四谷メディカルキューブ)の関洋介先生、そして稲嶺進4人が参加した。手術で糖尿病を治し、合併症が来る前に治癒させることができたら何と素晴らしいことだろう・・笠間、関、稲嶺の3人の無名なサムライ外科医はそう思った。
statue of livertystatue of liverty
摩天楼、タイムズスクウェア、ブロードウェイミュージカル、ニューヨークの地下鉄、リバティー島の自由の女神、セントラルパーク・・それらの感動以上にmetbolic surgery(糖尿病などの代謝疾患を手術で治療すること)の夜明けが近いことに胸を躍らせ僕らは、JFK国際空港を飛び立ち日本への帰路へとついた。(2008.9.17)
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