病的肥満と減量手術+糖尿病の外科治療

アスタリスク 人生の道標

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surgical therapy in diabetes

安全で質の高い肥満治療をめざした協働

肥満症治療、あらゆる英知を集結

日本肥満症治療学会 東京

新型インフルエンザの報道で”パンデミック”という言葉が有名になってしまったが、肥満の地球規模のでの増shimin加はまさにパンデミックの状態といっていいだろう。このレポートを書いているうちにもいったいいくつの命が肥満によって奪われていくのだろうか。肥満大国アメリカでの病的肥満の患者さんは人口の30%を超えている。これは実に日本の10倍の数だ。でも対岸の火事ではない。日本人は肥満に弱い。進化の歴史の中で高いエネルギー摂取の洗礼を受けてこなかった。一方西洋人ははるか昔にすでにその洗礼を受けており、高エネルギーにさらされても生きていけるだけの強い膵臓を持つ遺伝子を獲得している。太れるということはそれだけ膵臓が丈夫だということだ。一方日本人はわずか数キログラムの体重増加で糖尿病が発症してしまう。この数十年の間にこの国での糖尿病の患者さんは急増しそれに伴う、失明、腎不全、透析、心筋梗塞、脳梗塞、感染症、下肢切断、その他の負のIwao SasakiPresident Iwao Sasakiカスケードは急速に広がっている。それは個人だけの問題でなくそれらに伴う社会全体の生産性の低下、そして無視できない莫大な医療費が社会のエネルギーを吸い取ってしまう。
このような状況のなかで第2回日本肥満症治療学会が2009年7月10日から2日間東京で開催された。この学会は肥満症という”病気”そのものを探究するというよりも肥満症の”治療”に重きをおいた学会であり2008年に産声を上げた。昨年その記念すべき1回目がとりおこなわれて1年が経った。物事はそれを始めることよりも、むしろそれを継続することのほうが困難であることが多いと言われている。そのため今年のこの学会がどうなるのか実は心配していたのだがそれは大きな取り越し苦労に終わった。前回も素晴らしかったが、今回は本当に感動すら覚える程の空気を感じた。僕らのやってきたことがやっと実を結びかけている、本格的な肥満症治療の時代がまさに始まろうとしていることを肌で感じた。
今回の学会長は東北大学外科学教授の佐々木巌教授である。佐々木先生は今回の学会のメインテーマを『安全で質の高い肥満治療の協働』とした。これこそがまさに僕たちが日々感じていることだ。安全で質の高いことも非常に大切だが『協働』ということばは肥満症の治療BuchwaldHenry Buchwaldに本当にぴったりだと思う。肥満症は本当に手強い、その治療は簡単ではない。食事療法だけ、運動療法だけではもちろん長続きせず、手術治療だけでもうまくいかない、社会的な支えも必要だし、精神面のサポートも非常に大切だ。内科、外科、精神科、麻酔科といろいろな診療科のドクターの力も必要である。一人の患者さんを中心にたくさんの専門職のチームで質の高い治療を弛まない信念をもってやらないと結果は出ないのだ。それは、これまでの医師を頂点としたピラミッド型の指揮命令系統のシステムでは到底こなせない治療である。佐々木教授はその最も重要なこの『チーム医療』の大切さを指摘してくれたのである。この学会のように内科も外科も看護師も管理栄養士も臨床心理士もメディカルソーシャルワーカーも同じテーブルで議論できる学会を僕は知らない。それぞれの職種や専門分野を乗り越えて本音で語り合えることは本当に素晴らしいことだと思った。kadowaki-tanaka.jpg

あまりにも内容が豊富であったので簡単にその内容について少しだけ報告しておきたい。昨年の1回目の肥満症治療学会には海外からの招へい講演としてイタリアのあの『Nicola Scopinaro教授』が招かれたが今年もまたアメリカ・ミネソタ大学の肥満外科の父こと『Henry Buchwald教授』というこの世界でのチョービッグネームを招いての講演であった。Buchwald教授は1日目の講演では現在の肥満外科医(減量手術)の世界の趨勢についてお話された。急激に増加している減量手術の世界での数や減量手術に携わる外科医の数、減量手術の種類や数についても過去10年間でどのような変化があって現在どのようになっているのかということについて最新のデータを示してくれた。かいつまんでその内容を報告すると最も新しいデータでは世界で減量手術(肥満手術)は年間344221件(アメリカだけで23万件)が行われておりこの10年で7倍に増加している。以前はルーワイ胃バイパス術が多かったが、2008年のデMiwa TayamaMIwa Tayamaータではバンドが42%バイパスが40%そしてスリーブが5%となっておりバンドの急増が目立つ。フロアーからの『なぜバンドが増えているのか』という質問に対しては、その理由は実は『科学的な理由ではない・・』と述べられた。また、もっともいい手術方法はどれか?という質問では『いい手術は何を目的としているかによって異なる。短期の安全性をめざせばバンドがいい手術となるし、肥満や糖尿病をもっとも強力に治療したいのであればBPD/DSが最良となる』とのご意見であった。2日目の講演においてはチーム医療の大切さを説いた。それはまさに今学会のテーマでもあるが偶然の一致だとは思わない。やはり、『協働』は肥満治療について普遍的なテーマでありその神髄であるのだとあらためて感じた。

また、新たな展開としては我が国における『肥満症に対する外科治療のガイドライン』について議論されたということだ。これまではWHOの基準やアメリカ肥満外科学会(ASMBS)の基準、そしてアジア(APBSS)の基準などに則って手術適応を決めていたのだが、初めて日本での明確な基準を示したといえる。その詳細sonochansonochanについては近々学会からのステートメントという形で公表されることになるとのことである。
また、今回の学会副会長を務められた東京大学内科の門脇孝教授の講演も非常に感慨深いものがあった。僕らのような糖尿病に詳しくない外科医にもわかりやすいプレゼンでその疾患の病態や最新の知見について解説していただいた。また、胃バイパス術などが体内のインクレチンの変化をもたらし糖尿病を改善させるメカニズムやその効果についても触れて糖尿病治療に対する外科治療の可能性というところまで踏み込んで話してくれた。ソフトな風貌と優しい語り口・・スケールの大きさを感じた。僕はしばらく呆然としていた・・・ダテじゃない、彼は本物のキングだ。
また、市民公開講座では一般の市民の方々にも参加してもらって肥満症について考える機会があった。今回はあの"KONISHIKI"さんもパネラーとして参加していたためかかなりの盛況であった。KONISHIKIさんも300kg近いところまで体重が増加してしまったときのいろいろな辛さや手術を決断したときのこと、そして減量手術についてどうだったのか、肥満の抱える問題等について自身の経験から本当に大切なことを多く伝えてくれた。
僕はというと、kawamura,tani今回の学会ではまず過去5年間のアイランド・バリアトリックセンターでの治療成績をまとめたものを発表した。YMCの笠間和典(Kazu)先生の1/10以下という極めて少ない数であるけれども腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術だけでいうと我が国で2番目に多い経験数である。もう一つの発表は腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術後にいろいろな原因で手術が必要になった場合、2回目以降のオペも腹腔鏡下に可能か?というテーマで発表した。そしてウチのバリアトリックセンターのコーディネーターである臨床心理士の田山さんがサポートグループの活動について彼女にしか出来ない切り口で発表していただいた。身内ながら本当に素晴らしいプレゼンであったと感じている。

こんなに充実した学術集会は僕の記憶の中にはない。いい話が本当にたくさん聞けた。多くの知識を得た。そして多くの人がそのまだ見ぬ世界への夢を語った。この国ではまだ全くといっていいほど高度肥満症治療のメインストリートは築かれていない。高村光太郎のあまりにも有名な詩を思い出した。『僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る・・・』そう、未来の道は歩いていくことで作られる。その『道程』にどのような困難性が待ち受けているのかは分からないが僕らは確実にその前線にいる。肥満症に対する外科治療(減量手術・肥満手術)は、まだ表面上は恐ろしいほどに静けさを装っているがその根底にはfrendsFrends and collegues大きなエネルギーが充満している気配を感じる。欧米に遅れること数十年まさに今、減量手術・肥満手術の『ビッグバン』がこの列島で始まろうとしている。(2009.7.11)