病的肥満と減量手術+糖尿病の外科治療

アスタリスク 人生の道標

HOME > MISSION > Repo mission Kaohsiung Taiwan

surgical therapy in diabetes

台湾の衝撃II・・最先端の内視鏡外科技術を減量手術に適応

高雄(カオシュン)紀行・・究極の目的を究極の手段で

SSL(Single Site Laparoscopic surgery) for Bariatric Surgery

台湾高鉄台湾高速鉄道2009年6月4日、あたりはすでに黄昏時となり大粒の雨がアスファルトの道路をたたきつけていた。究極の小龍包、そして巨大なマンゴ・アイスで僕らの胃袋は極限状態になっていた。台北での感動に浸る間もなく次の目的地・高雄(かおしゅん)への移動のため台湾高速鉄道、いわゆる新幹線に乗り込み台湾南端の港湾都市である高雄へと向かった。台湾高速鉄道は最大速度280km/hで日本の新幹線よりも速く台湾の北から南までたった2時間しかかからなかった。台湾第2の都市・高雄の駅はまだ新しく空港をイメージさせる近未来的な美しいつくりだった。タクシーを拾うため外に出ると、ここでも小雨がぱらついていた。高温多湿であるが、どこか心地よい熱帯の空気があたりを包みこむ。ホテルにチェックイン後、雨も上がっていたのでKazuとあたりを散策することにした。大きな川が流れその周囲には公園が整備されていてアコースティックギターにのせて誰かがラブソングを歌い、ところどころに恋人達が寄り添っている・・それもそのはず、川の名前はLove River(愛河)と書いてある(汗)。なんで男2人でこんなところを散歩しないといけないのか分からないが、とにかく公園で台湾ビールをゲットし暫し休憩をとった。ホテルに帰るときには突然のスコールに襲われた・・恐るべし亜熱帯。
ssl sihkunSILS
6月4日の朝はうって変わって快晴だった。目的地であるE-DA Hospital(義大医院)までKazuとタクシーで向かう。朝は道路が混むとの情報があったため7時半にはホテルを出発した。30分くらい走ると巨大なビル群は徐々に消えて緑に囲まれた広大な土地が広がってきた。やがて大学が確認できて、それにに隣接する巨大な建物があった。その玄関先のクラッシック音楽とシンクロしながら踊るようにしぶきを上げる噴水が僕らを出迎えた。これがE-DA Hospital(義大医院)だった。エントランスホールは清潔で広く、ここに来ただけでなにか病気が治ってしまうのでないかというような安心感が得られるようなそんな雰囲気だった・・・。しばらくして若き内視鏡外科医"Chih-Kun Huang(黄到錕)"が出迎えsslてくれた。彼と会うのは昨年9月のニューヨーク、今年の3月のケアンズに続いて3回目だ。Chih-kunに案内され早朝のカンファレンスのための病院内の会議室へに向かう。そこにはU字型の大きなテーブル、発言するためのマイク、そしてもちろんプロジェクターなどがあり最先端の会議の機器が揃っていた。しばらくするとドクターやナースその他の職員が次々に集まってきた。また、香港の外科医、麻酔科医、栄養士、パラグアイの外科医もこのカンファレンスに参加した。Chih-KunからKazuが紹介され、Kazuから最先端の肥満外科、代謝外科医(metabolic surgery) についての講演が行われた。講演のあといろいろな職種のスタッフから質疑応答が活発に行われ朝のカンファは終わった。言語はさすがに中国語でも日本語でもなく英語だっifso ossanz臍周囲のきずた。いろいろな職種の人が当たり前のように英語を使っていたのは印象的だった。軽い朝食を摂った後、病院を案内してもらった。至る所が品良く、機能的に贅の限りを尽くしている病院だと思った。Chih-Kunはこの巨大な病院の中にあるInternational Bariatric Center(国際内視鏡減重中心)の主任である。センターの名称からも分かるように、ここでは台湾だけでなく日本を含む外国からも減量手術を受けに来るとのことだった。設備も人も充実しておりいい診療がなされていることを感じ取ることができた。
今回の目的は現在世界の内視鏡外科の世界でトピックになっている腹部の傷を1カ所で腹腔鏡手術を行うSILS(SSL)という難易度の高い新しいオペのテクニックを見せてもらうことだ。ただでさえ困難性が予測されるそのオペにおいて胆嚢摘出術などの比較的難易度の低いオペではなく、腹腔鏡手術の中で最も困難なオペであると言われる肥満手術(減量手術)で彼はそれを行うというのだ。その日のオペは2例予定されていて最初は普通の腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(ガストリックバイパス)、そして2例目がSILSでのルーワイ胃バイパス術であった。
ロッカーで着替えを済まし手術室へ入った。オペレーターのChih-Kunはまだいなかったが全身麻酔はすでにかかっていて器械出しのナースとオペのアシスタント3人で術野の消毒やドレーピング、機器のセットアップは完璧に終了していた。後はオペレータの到着を待つだけという状況だった。しばらくしてChih-Kunがオペ室内へ入ってきた。ガウンをすばやくまとうとオペレータの位置についた。canference e-daカンファレンス開始の合図とともに左下腹部にメスで切開が加えられてあっという間にファーストポートが挿入された。一般的にポートの位置は手術の成否を左右する重要な要素であるためその位置を決めるのは瞬時には出来ないことが多い。でも何の迷いもなく次々とポートを挿入していく様を見ていると彼の600例の腹腔鏡下減量手術経験がダテでないことを物語る。次から次へとトップスピードで手術は進行した。肝臓を挙上し腸管を切り離すやいなや吻合に移る。多くの手術操作はほとんどシームレスで流れていった。吻合はほとんどpolar bearサポートグループのマスコット”polar bear”自動縫合器で行った。空腸空腸吻合部のリニアーステイプラーの挿入口もまたリニアーステイプラーで閉鎖した。胃嚢(pouch)空腸吻合もリニアーステイプラーで行った。さすがにこの部位のエントリーホールの閉鎖は手縫いで行った。全ての操作が終わった瞬間に手術経過時間を見た。45分9秒・・・はっ速い。高度肥満の患者さんは気腹や長時間の同じ姿勢による血栓その他の合併症が起こりやすいため、無駄な操作を一切排除したそのスタイルは理にかなっていると思われた。
1例目の手術後、カンファレンスルームに移動し軽食を摂りながら午後に予定されているsingle site incision、つまり一カ所のみの皮膚切開で腹腔鏡下手術をすることについての予習のレクチャーがChih-Kunから行われた。kaoshung_dinner.jpgwelcom partyChih-Kunのsingle incisionの方法は臍の上にΩ(オメガ)型に皮膚切開をおいて臍の周囲から3本のポートを挿入して湾曲することのない普通の腹腔鏡の手術器械を用いて(ただし、カメラや鉗子類、ステイプラーは長いものを使用)行うスタイルだ。確かに一つの傷の大きさは最初6cmの大きさをおくので少し驚いたが最終的には形成外科的テクニックでその傷の大きさはその半分以下になった・・なるほど、SILSが患者さんの体に優しいというよりもむしろ傷を少なくするという美容的な面が大きいということを考えれば、最初の傷は大きくても構わない。最終的な出来上がりが、よりコスメティックに有利になればいいのだ。臍を取り囲む弧状の傷はやせた女性ならともかく、高度肥満の患者さんにおいては傷があることさえ気づかない程度になると思われる。

さて、午後はそのSILS(SSL)を間近でみる機会を得た。臍上のΩ切開から3本のポートが挿入される。12mm2本、5mm1本の合計3本のポートがところ狭しとぶつかり合っている。肝左葉を挙上するのはなんと、肝臓そのものに直針を貫通させて糸で行う方法であった。3月にオーストラリアのケアンズの学会で彼のテクニックfriendsKazu,Chih-Kun,Meをビデオで見ていたので驚きはしなかったがさすがに現場で見るとちょっとドキッとした。でも視野はすこぶる良好で出血も少量のみだった。問題はやはり手術器械やカメラ、ステイプラーなどが体外で干渉してしまうことだ。これを避けるために、ポートの深さをリアルタイムにずらしたり、鉗子やステイプラーのハンドルを逆さまに使用するなどの様々な工夫があった。窮屈そうな中でのオペであったがchih-Kunは助手(外科医ではない)と2人で次から次へと手術操作をこなしていった。1例目と同じルーワイ胃バイパスであったがこのような『悪条件』のなかでよくあれだけのオペができるものだと感心した。そして手術は最終局面、胃嚢(pouch)と空腸吻合のエントリーホールの縫合閉鎖へと移った。鉗子と持針器がぶつかるほど近くそれらが限りなく平行に近い悪条件のなかで縫合を完璧にやり遂げた。腹腔鏡下操作を全て終了後、肝臓を貫通した2本の糸は取り去られた。ごくわずかな出血があるのみで容易にコントロールされた。引き続いて3本のポートをは抜去され、この手術で大切なもう一つの作業、臍周囲の傷の形成へ入る。独特の形成外科的手法を用いてあっという間に横長の傷は臍を取り囲む馬蹄型の小さな傷へとコンバートされた。手術時間は1時間21分4秒・・・これだけの悪条件でこの手術時間は凄いことだ。love riverLove River


世界中に急激に増加する病的肥満(高度肥満)それは、ここアジアでも例外ではない。肥満に関連する糖尿病の急増はさらに大きな問題だ。それらを根本的に解決する有効な手段は今のところ手術以外には事実上存在しない。減量手術(Bariatric Surgery)から代謝手術(metabolic surgery)という全く新しい治療法に世界は大きな期待を寄せている。そして、また世界は手術治療の宿命である『きず』と『痛み』にも何らかの手段で対処しようとしている。腹部の傷を一切排除しようというNOTES(normal oriffice trans lumenal endoscopic surgery)という内視鏡手術がなかなか現実的な発展を遂げられないなか、腹部の傷を複数(通常5カ所)から一つに減らすことが現実的だということでSSL(single site laparoscopy)とかSILS(single incision laparoscopic surgery)という極限のオペの開発が急ピッチで進んでいる。もちろん多くの困難性はある。今回台湾の旅で台北のWei-Jey Lee教授と高雄のChih-Kun Huangのオペを見る幸運な機会に恵まれた。オペのスタイルは少しだけ違っていたが、最終的なゴールは一緒だ。究極の目的=metabolic surgery究極の手段=SSLで果敢に挑むアジアのヒーローたちに僕らは学ぶことが多かった。今年中に日本はGDP 世界第2位の座を中国に明け渡すことは確実とされている。電子機器などのハイテク分野でも韓国や台湾に追い越されて久しいが、手術をはじめとする医療の分野でもそのような現象が起こっている。世界に誇る胃癌の研究や治療に関しても韓国に脅かされてきており、そのリーダーの座を明け渡す日も遠くないかもしれない。日本に生まれたと言うだけで満足している外科医がいかに多いことか・・常にチャレンジャーであり続ける姿勢を持ち続けることでこの国は発展してきたはずだ。そもそも外科医に安住の地はない、常に最良の外科治療法を求めて長く果てしなく続く坂道を一歩一歩登っていくことが必要だ・・。リスクを恐れ、ほどほどの外科治療に満足してしまったときに外科医は外科医でなくなる。日本の外科医としてのプライドを持ち続けよう・・・ You lose pride,you lose everything.(2009.6.7)