減量手術の種類

 減量手術の目的

減量手術の目的

0プロローグ
誤解を恐れずに言いますと”減量手術は体重を落とすことを目的とはしていません”。逆説的に聞こえるかもしれませんが体重が減るというのはあくまでも結果のひとつでありそれが目的ではないのです。では、この手術の目的はなんでしょうか?それは”健康で充実した人生をより長く歩んでいけるようにすること”なのです。手術によって体重が減るだけでなく、糖尿病、高血圧、高脂血症、睡眠時無呼吸症候群、うつ等の精神的な問題などが『治癒』または『改善』し身体的にも社会的にも健康に過ごせるようになります。ですから、美容整形手術等で行われている脂肪吸引他の美容を目的とした手術とは全く性質を異にします。たしかに、減量手術は体重を落とし、その結果として美容的見地からも優れた結果を出しますがそれだけを目的として手術を受けることは出来ません。.

減量手術の種類と原理 How it Works

減量手術の種類と原理・・どのような手術がありますか?

1手術の種類
手術中の様子減量手術には大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつは『食べられる食事の量を減らす手術(restrict procedure)』です。おもに、胃のみに外科的処置を加えることによって機能します。代表的な手術に『腹腔鏡下胃バンディング術(LAGB)』と『腹腔鏡下袖状胃切除術(Sleeve Gastrectomy)』があります。もう一つは『摂取した栄養の吸収を阻害する手術(malabsorbtive procedure)』です。代表的な手術に『胆膵路変更術BPD』とそのバリエーションである『腹腔鏡下十二指腸バイパス(DS)』があります。これらは栄養吸収の主体である小腸におもな手術操作を加えることによって体内への過剰なカロリー吸収を阻害します。そして『食べる量を減らす手術』と『栄養吸収阻害』の手術を組み合わせた手術があります。その手術の代表が『腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術 LRYGBP』です。現在はおもにこれらの4種類の手術が世界中で施行されています。

腹腔鏡手術とは Laparoscopic Surgery

腹腔鏡手術と開腹手術との違いは?

1きずの小さな体にやさしい低侵襲手術

開腹手術の様子開腹手術1980年代末に始まった腹腔鏡手術はその後数年の間に瞬く間に世界中に広がりました。傷のちいさな、痛みの少ない新しい手術・・・これは近代外科学200年の中における大変革ともいわれています。腹腔鏡(ふくくうきょう、ふっくきょう)とはおなかの中の空間を観察するカメラ装置のことです。これまで肉眼で腹腔内を観察するには腹部に20cm以上の大きな切開をおく必要がありましたので術後の耐え難い痛みと醜いきずあとが手術治療の大きな欠点でした。ところが腹腔鏡の出現でたった1cm腹腔鏡手術の様子腹腔鏡手術の切開部よりおなかの中(腹腔内)に高性能カメラを挿入して腹腔内を詳細に観察することが出来るようになりました。手術の道具も直径が3mmから10mm程度とかなり細くなり傷の大きさや痛みはかなり軽減されました。この腹腔鏡手術の発展は多くの手術に革命をもたらしましたが『肥満手術・減量手術』も例外ではありませんでした。というより、腹腔鏡手術のもっとも大きな恩恵を受けたのはこの減量手術かもしれません。現在減量手術のほとんどがこの腹腔鏡手術で行われます。写真は腹腔鏡手術と開腹手術の様子です。開腹手術で腹腔鏡下肥満手術後のきずあと腹腔鏡肥満手術後2年のきずあとは大きく切開しますが腹腔鏡手術では通常1cm前後の傷から直径12mmのポートと呼ばれる器械を数本腹部に挿入して手術道具を出し入れすることにより手術が遂行されます。写真にも示していますように腹腔鏡下減量手術後の傷痕はほとんど目立たちません。術後早期の傷の痛みも開腹手術に比較して比べものにならないほど軽いものとなります。

(。

腹腔鏡下胃バンディング術 (LAGB)

胃バンディング・・比較的簡便で安全性の高い手術 )

2腹腔鏡下調節性胃バンディング術LAGB胃に調節性のバンドを巻いて食べる量を調整
もともとはアメリカで開発された手術ですが、現在ではオーストラリア、ヨーロッパ、そして南北アメリカ大陸でも行われるようになってきた手術です。日本においても2005年に大分大学の北野正剛教授によって日本に導入されました。この術式を安全に我が国に普及させるために定期的に腹腔鏡下胃バンディング術のトレーニングコースが大分大学医学部で行われています。この手術は胃や腸を切断したり吻合したりすることなく特殊なバンドを胃の最上部(食道とのつなぎ目の近く)に巻き付けるだけの手術です。そのため、手術そのものの技術的な難易度は他の減量手術と比べると低いと言えるかもしれません。手術時間や入院期間が比較的短い(1〜3日)のが特徴です。胃に巻き付けたバンドはとても軟らかく、生体に優しい素材で出来ていてバンドの中には水が出し入れ出来るような構造でいわば風船のようになっています。バンドは腹部の皮下においた『アクセスポート』とチューブで連結されておりそのアクセスポートから生理食塩水を注射器で出し入れすることによりバンドの締め具合を調節します。術後は減量の進み具合を見ながらずっとこのバンドの調節を定期的(1ヶ月ごと)にすることによって適切な体重減少が得られるようにしますので綿密な外来通院が必要となります。ですから手術のみでは適切な減量効腹腔鏡下バンド講習会終了大分大学太田正之先生より腹腔鏡下バンド講習会修了証果は得られません。目的達成のためには手術そのものよりもむしろ術後のバンド調節に大きく依存します。現在使用できるバンドはLAP-BANDとREALIZE BAND(SAGB)の2種類です。これらのバンドはいずれも外国製であり米国ではFDA等の承認が得られて公式にも医療器具として認められておりますが、日本においては厚生労働省の認可がおりていません(薬事未承認)。ですから、現在のところはあくまでも自己責任において個人輸入という手続きをとって使用することになります。
【バンディングの利点】
他の減量手術と比較すると胃や腸を切除、縫合、吻合等をすることがないことにより.術後早期の合併症は他の減量手術に比較して低くなります。文献での報告では手術に関連した死亡率は0.1%程度で胃バイパス術よりも低くなっています。小腸をバイパスすることがないため栄養吸収障害のリスクが低くなっています。また、消化管には外科的処置を加えていないため、必要であればバンドを除去することによりほぼ術前に近い状態に戻すことも可能です。
【胃バンディングの欠点】
バンドシステムという”人工物(異物)”を体内に埋め込む必要があります。
【バンディングに特有なリスク】
合併症のリスクのない手術はありません。報告されている多くの合併症は重篤なものではありませんがときに入院や手術を要することもあります。米国では研究報告によると嘔気・嘔吐(51%)逆流性食道炎(34%)、バンドのスリップ・胃嚢の拡張(24%)、バンド部の閉塞(へいそく)(14%)等が主な合併症です。報告によると胃バンディング術を受けた患者さんの25%が何らかの理由でバンドを除去することになったとのことです。除去の理由の2/3は以下の理由です。「食道拡張」が11%、「嚥下障害・便秘・下痢」が9%、9%の患者さんはバンドの問題を解決するために再手術が必要でした。アクセスポートの不具合でも9%の患者さんにおてい再手術が必要でした。胃バンディング手術を受けた1.3%の患者においてバンドが胃の内側に入り込んでいく「erosion(侵蝕)」が起こりました。そのようなことが起こった場合は再手術によりバンドを除去しなければなりません。
【胃バンディングの効果】
バンディングは手術そのものも重要ですが、さらに重要なステージは術後のバンドの調節といわれています。ですから、術後決められたプログラム通りにきちんと外来通院をしなければ減量効果は現れません。そればかりか合併症が起こっても病院に来なければ診断することも治療することもできませんので通院は必須です。決められた食事を守り、プログラム通りに通院してバンドの調整をした場合の減量効果は一般に良好であり3年かけてゆっくりと体重は減量しその後はその体重が維持されます。平均的には術後1年で超過体重の40%が減り、術後3年で超過体重の43%程度が減少するといわれています。つまり、患者さんの理想体重が60Kg であった場合、手術時の体重が130Kg としますと、「超過体重」は130-60=70となり超過体重は70Kgとなります。70kgの43%ですから70x0.43=30.1Kgの減量効果が期待できるということになります。あくまでも効果には個人差がありますのでこれより多く減量できる人もいれば逆の場合もあります。他の治療法と同様に食事療法を守らない場合は体重の再増加(リバウンド)の可能性はあります。また、術後、減量に伴う糖尿病、高血圧、高脂血症、睡眠時無呼吸症候群、逆流性食道炎の改善率はそれぞれ48%,38%,78%,94%,32%と報告されています。

腹腔鏡下袖状胃切除術(LSG)

腹腔鏡下袖状胃切除 Laparoscopic Sleeve Gastrectomy

3最近注目されている比較的新しい手術

腹腔鏡下袖状胃切除術(Laparoscopic Sleeve Gastrectomy 以下LSG)は胃を手術(腸に手術操作を加腹腔鏡下袖状胃切除術えることはありません)して食べる量を制限します。LSGはまた胃部分切除術、垂直袖状胃切除術などとも呼ばれます。この手術は胃を細長いチューブのようなものに形成するため”袖(そで)”とよばれます。LSGでは胃の2/3を切除し残りの胃の容量は60〜100ml程度といわれています。胃の容量が少なくなるため早期の満腹感と過剰な食欲の減少をもたらします。その小さな胃袋は一度に食べられる食物の量を制限します。小さな胃のチューブを切り離した後、残りの2/3の胃袋は体外へ摘出します。胃の出口のバルブである”幽門”は残るため胃からの食物排出機能は正常に保たれますので満腹感は維持されます。LSGは手術のリスクが高い超肥満の患者さんに対してBPDや胃バイパス術の前段階の手術として行われることが多かったのですが、LSGのみでも結構減量効果が良好なことが徐々に分かってきて、最近では2期的手術の1期目という位置づけだけでなくそれ自体が独立したひとつの手術として行われるようになってきました。。LSGでは胃と小腸のつなぎ合わせること(吻合)や腸の内容物が通るルートを変更すること(バイパス)はありません。また栄養吸収障害もほとんどありません。食べたものが急速に小腸に流入することによるダンピング症候群もありません。LSGは食欲を刺激するGhrelin(グレリン)という消化管ホルモンをつくる胃の一部(胃底部)を切除するため胃バンディング術より減量に関して有利であると考えられています。この手術の合併症の頻度は0.5%程度と報告されておりでBPDや胃バイパス術の2%から3%に比較して低くなっています。
【スリーブ胃切除(LSG)の利点】
LSGでは胃バンディング術のように体内に人工物を埋め込む必要性はありません。また胃バイパス術やDSのように消化管の切離や吻合という比較的複雑で難易度の高い操作がないので手術はそれらに比較して簡便でリスクは低いとはいえます。ですから、手術のリスクの非常に高い患者さん、たとえばBMIが50を超えるような「超肥満 Super obese」の患者さんや心臓病など重要臓器の機能が低下している患者さんの場合は複雑な手術に比較して手術に伴うリスクを軽減させることができます。また腹腔鏡下胃バンディング術は術後にバンドの締め付け具合を頻繁に調整する必要性がありましたがこの手術ではその処置は不要です。いわば、「メンテナンスフリー」ということがいえます(定期通院と食事療法の継続は必須です)。先程述べたようにGhrelinという食欲を惹起するホルモンを多く作っている胃底部を切除するため過剰な食欲を抑え、飢餓感を無くする働きがあると考えられていますので術後は無性に食べたいという欲求が起こりにくくなります。また、日本人は胃がんの発生率が高く胃バイパス術において通常の胃カメラでは胃の観察が不可能であるということが懸念されていました。しかし、LSGにおいては通常の胃内視鏡での観察が特別な装置を必要とすることなく可能ですから胃がんの発見が遅れてしまうという懸念は少なくなります。
【LSGに特有のリスク・合併症】
LSGでは胃や腸をつなぎ合わせる”吻合(ふんごう)”という操作はありませんが胃の一部を切除する必要があります。胃の切除には通常”エンドリニアーステイプラー”という器械を使います。胃の切離と縫合を自動的に行ってくれる非常に信頼性の高い器械ですが、時に上手くいかない場合もあります。まず、胃の切離部位からの「出血」が起こりえます。手術中に起こることもあれば手術後数時間経って出血する場合もあります。手術中でしたらすぐに止血を行いますが、術後の出血(後出血)で、保存的に止血することができなければ再手術にて止血を要する場合があります。また、胃を切離・縫合した部位の胃壁の癒合が悪く、術後に胃の内容物が腹腔内(おなかの中の空間)に漏れる場合があります。これは「リーク」または「縫合不全(ほうごうふぜん)」と呼ばれ、もっとも起こってほしくない合併症のひとつです。いったん起これば長期入院、長期の絶食、胃の周りに多くの膿が貯まれば(腹腔内膿瘍)それを体外に誘導するための「ドレナージ」そして再手術を要する場合もあります。通常縫合不全が起こった場合は入院期間が2ヶ月以上に及びます。治療効果に乏しい場合は生命の危機につながる場合もありますがその頻度はまれです。出血やリーク(縫合不全)のリスクを軽減するために胃の切離部位はステイプラー(ホッチキス)に加え、腹腔鏡下にその部分を糸で縫って補強します。また、LSGでは減量効果を出すために胃をチューブのように形成しますが、術後に徐々に細くなり食事が通らなくなる場合があります。「狭窄(きょうさく)」。その場合は胃カメラで観察しながらバルーンで拡張したりすることもありますが効果は一定していません。食事がほとんど通らない場合は再手術を要する場合があります。その時は2回目の手術で腹腔鏡下ルーワイ胃パイパス術にするか「十二指腸変更術DS」にする必要があります。
【LSGの効果】
胃の一部を切除してしまうだけですが予想以上にこのシンプルな手術の成績は良好で体重減少率は胃バイパス術にせまるものがあります。短期的な成績は術後1年での体重減少は平均59kg超過体重減少率は59%と報告されています。これはバンドよりは良好で胃バイパスやDS に比較するとわずかに劣ります。しかし比較的新しい手術であるのでその長期的な成績はまだ出ていません。長期的に減少した体重が維持されるのか、栄養状態は良好に保つことができるのかは今後の研究が待たれています。糖尿病、高血圧、高脂血症、睡眠時無呼吸症候群等の肥満に関連する合併症の治癒・改善率も良好です。

腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術 (LRYGBP)

胃バイパス術(LRYGBP)・・・歴史のある事実上の標準術式

No_04.png事実上の標準術式 Defact Gold Standard
腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術ルーワイ胃バイパス術胃バイパス術は40年以上の歴史があり、その間よりよい方法を求めて少しずつ変更が加えられ現在に至っています。現在肥満手術は世界中で行われていますが、もっとも多く行われているのは米国です。その米国でもっとも多く行われている手術がこのルーワイ胃バイパス術です。ルーワイとはRoux Yと書きます。Roux(ルーと読みます)はスイス人の外科医で100年以上前に胃切除後の再建方法をY型にする優れた方法をを報告し、現在でも胃がんの手術での再建の標準は現在でもこのRoux-Y 法です。胃バイパス術でも最初はこのRouxタイプではありませんでしたがいろいろな合併症を軽減するため、このタイプへと落ち着きました。この術式は『一回に摂取できる食事の量を減らす』こと、摂取した食物中の『栄養吸収を減らすこと』の2つの作用の組み合わせで体重が減るしくみになっています。まず、胃上部に30ml程度の容量の小さな胃袋(胃嚢やパウチなどともいいます)を腹腔鏡下に作ります。この容量は実に胃全体の1/50に過ぎないほどのきわめて小さな胃袋です。次に食物を栄養吸収の要である小腸に誘導するためにこの『パウチ』と小腸を腹腔鏡下につなぎ合わせます。パウチにつなぎ合わせた食事だけがwittgroveAlan WittgroveとWashington DCにて通るこの小腸の部分はRoux脚(日本ではY脚と呼ばれることが多い)と呼ばれ減量手術では100cm 
以上とることがほとんどです。食物の通らなくなった『大きな胃袋(空置胃、残胃、remnant stomach)』から十二指腸、そして小腸(空腸)の始まりの部分50cmは胃液、胆汁、膵液、十二指腸液などの消化液のみの通り道(胆膵路biliopancreatic limb)へと変化します。食物の通るRoux脚と消化液の通る胆膵路をY型に腹腔鏡下で接続することでこのバイパス術は完成します。減量効果、併存疾患(糖尿病、高血圧、高脂血症、など)の改善率、手術に関連した短期・長期合併症の程度などのバランスが比較的良好です。以前は開腹手術で行われていましたが1994年Wittgroveが世界で初めて腹腔鏡下にの手術を成功させました。その後1990年代後半からは傷の小さな腹腔鏡下に行われることが多くなってきています。病的肥満の患者さんは腹壁や腹腔内の脂肪がかなり多く、ただでさえ手術が容易でない環境にありますが、腹腔鏡下での胃や小腸の切離、そして消化管どうしをつなぎ合わせる(吻合)には非常KelvinKelvin Higaと私に高度のテクニックを要しますが多くの先人の努力の結果、その技術を会得した内視鏡外科胃にとっては安全に行うことが可能となってきました。日本においては1982年に開腹手術で当時千葉大の川村功先生が始めて行いました。それから20年後の2002年笠間和典先生が始めて腹腔鏡下にこの手術を成功させました。日本において減量手術は諸外国に比較するとほんのわずかな数しか行われていませんが米国と同様日本においてもルーワイ胃バイパス術は最も多く行われている減量手術です。現在我々が行っている方法は世界で最も美しい腹腔鏡下バイパス手術をする日系米国人のKelvin D Higa の方法を標準としています。
【腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(LRYGBP)の利点】
40年あまりの歴史があり、長期的な手術の効果、合併症が分かっています。バイパス術後に開発された手術でも現在ではほとんど行われなくなった手術もある中で、これだけ長期にわたって淘汰されることなく標準術式となっていることはやはり優れた術式といえるでしょう。まず、確実に体重を減らすことができること、そして大きなリバウンドをすることなく長期に体重を維持出来ること、長期的にみても適切な食事療法を行えば重大な栄養障害が来ないことが利点としてあげられます。胃バンディングのように体内に異物を埋め込むことは不要で、LSGやBPD/DSのように臓器の一部を切除して取り出すことが不要であることも利点といえるかもしれません。食事の通り道を変更するだけなので臓器の摘出はありません。ですから技術的困難性はあるものの理論的にはもとの状態に戻すことも可能です。実際患者さんは小さな胃袋によって少量の食事で満足し、栄養吸収の要である小腸は最小限のバイパスであるため栄養的な問題も高くはありません。胃バンディング術における頻回のバンドの調節は不要でありこれもある意味「メンテナンスフリー」の手術といえるかもしれません。現在では腹部を大きく切開することなく腹腔鏡下に小さな傷で施行可能になってきました。
【腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術特有のリスク・合併症】
副作用のない薬がないように『合併症のない手術は存在しない』のです。腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術も例外ではありません。手術に関連した合併症によって命を落とすことさえあります。その頻度は多くの報告により若干異なりますが概して手術総数の0.5%未満です。つまり200例の手術が行われた場合、何らかの理由で1人で不幸な結果になってしまう可能性があるということです。しかし、これは一般的な外科手術全般でもこれと同程度以上の割合であり決してルーワイ胃バイパス術で多いという訳ではありません。死因としてもっとも多いのは『肺梗塞・肺塞栓』というものでこれはバイパス術に特有なものではなく眼科や整形外科の手術でも起こりえます。次に多いのは『縫合不全』が挙げられています。胃や腸を縫い合わせたところが癒合せず胃腸の内容物がおなかの中の空間(腹腔内)に漏れ出てしまうことです。そうなると腹腔内に膿がたまり、その中の細菌が血液を介して全身に広がり敗血症という重篤な状態になることがあります。これは消化管の切離、吻合を伴う手術では起こる可能性がありますので胃バイパスに特有なことではありません。縫合不全がいったん起こると長期の入院と絶食が必要になります。保存的に治療が見込めない場合は再手術を行ってドレナージを行うこともあります。その他術後比較的早期に起こるものとしては縫い合わせたところから出血がおこる『吻合部出血』などがあります。術後しばらくして起こる可能性のある比較的重篤な合併症は『腸閉塞・内ヘルニア』です。これは腹腔内で小腸が捻れたり手術によって出来た腹腔内の小さな穴の中に小腸が入り込むことでときに小腸に血液が行かなくなり小腸が壊死に陥ってしまうもので出来るだけ早期の手術が必要です。また、胃嚢(パウチ)と小腸をつなぎ合わせた部位に潰瘍ができる『吻合部潰瘍』やパウチと小腸の『吻合部の狭窄・閉塞』が起こる場合もあります。通常狭窄には胃カメラ下に特殊なバルーンで膨らませることにより良好な治療効果があります。その他急速に体重が減少することによって胆石が発生したり一過性の脱毛を経験することがあります。
【腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術の効果】
ほとんどのケースで術後半年で急速に体重が減少し術後1年までゆっくり体重の減少は続きます。術後1年から3年はほとんど横ばいですが若干のリバウンドはありますが多くの症例は長期に減少した体重を維持することが出来ます。バイパスでの体重減少は平均50Kg 程度で超過体重減少率は75%です。つまり余分な体重の75%がこの手術によって減少することが期待できます。理想体重から60Kg オーバーしていた人は60x0.75=45(kg)の減量が見込めるということです(これはあくまでも平均なのでこれより多く減少する人と少ないひとがいます)。手術による体重減少に伴い、もし糖尿病が合併している患者さんでは高い確率で糖尿病が治癒します。多くの報告では80%の患者さんにおいて術後2型糖尿病においてあらゆる治療から解放されます。耐糖能異常は術後早期に改善がみられ多くのケースで術後2ヶ月以内に糖尿病から開放されます。同様に高血圧は70%,睡眠時無呼吸の患者さんは95%以上が改善または治癒するといわれています。

腹腔鏡下胆膵路変更術・十二指腸バイパス(BPD/DS)

腹腔鏡下胆膵路変更・十二指腸バイパス術BPD/DS

5最も減量効果が高いが難易度も高い究極の手術
腹腔鏡下十二指腸バイパスイタリアのジェノア大学のスコピナーロ教授は1970年代半ばにBiliopancreatic diversion(BPD)という術式を開発しました。これは胃の部分切除と小腸の大半をバイパスするもので栄養が吸収される小腸は50cm程度と極端に短くしました。減量効果は強く確実で、しかもリバウンドが極めて少ないといわれています。糖尿病などの併存疾患を改善させる作用も最も強いといわれています。ただビタミンやミネラルの吸収の低下は避けられず、長期のサプリメントの摂取は必須となります。Scopinaro手術はその後Hessらによって変更が加えられDuodenal Switch(DS 十二指腸変更術)という術式が生まれました。胃を垂直に切除し十二指腸と小腸をバイパスするようにしたものです。栄養吸収が可能な小腸は75cmから100cmと若干BPDより長めに取っています。DSは幽門を温存するために食事が一気に小腸に流入してしまうことがないため胃バイパスやスコピナーロ手術に比較してダンピング症候群が少ないといわれています。また、十二指腸は小腸より胃酸に強いため吻合部潰瘍の頻度が少ないといわれています。DBD/DSはその強力な減量効果からルーワイ胃バイパス術では減量効果が不十分と考えられる超肥満の症例でいい適応とされてきました。BMIが50を超えるような超肥満のスコピナーロ教授scopinaro教授と私ケースではただでさえ手術が困難である上に、この手術はかなり煩雑で技術的要求度が高いため手術に関連した合併症はバンドやバイパスに比較して高くなります。そのため 腹腔鏡下にBPD/DSを初めて行ったMichel Gangerは手術のリスクを軽減するためにまず初めにBPD/DSの最初のパートである胃を垂直に切除する手術を行い、ある程度減量が得られて手術のリスクが低下したときにBPD/DSの後半のパートである十二指腸変更(十二指腸バイパス)を行う2期的手術を提唱しました。そうすることによって一期的に手術をするより手術の合併症が激減しました。しかし、この手術の最初のパートである垂直に胃切除術を行うことは、上述のLSG,Sleeve Gastrectomyそのものです。そうです、実はBPD/DSの最初のパートだけでかなりのケースで十二指腸バイパスが不要なほどLSGの効果が高かったのでLSGという”独立した”術式が生まれたのです。これは嬉しい誤算でした。ただ、LSGだけでは健康を維持することができるだけの減量効果が出ない症例ももちろんありますのでLSG後目標体重まで減量出来なかったケースは十二指腸変更術を施行する必要があります。
【腹腔鏡下十二指腸変更術DSの利点】
上述のようにこの手術の利点は強力な減量効果であるといえます。しかも糖尿病等を治癒・改善させる力も減量手術の中でもっとも強力です。バンドのように体内に異物を埋め込む必要もなく、バンドの調整を頻繁に行うような「メンテナンス」は不要です。また、ルーワイ胃バイパス術と比較した場合の利点としては通常の胃カメラで観察が困難になる空置胃(bypassed stomach)がなくなるので、胃がんの発生が比較的多い日本などでは術後の胃の観察は容易であり胃がんの発見が遅れてしまうという懸念はバイパス術に比較して低くなると思われます。
【BPD/DSに特有なリスク・合併症】
腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術と同様に消化管の切離や吻合を伴うためにバイパスの項で述べた縫合不全や吻合部出血等の消化管手術の一般的な短期合併症の可能性はあります。しかも、この手術は他の減量手術で対処が困難なほどの高度肥満の症例を扱うことが多いためどうしても合併症の頻度が高くなることが予想されます。術後の合併症率がバンドとスリーブが5%前後、胃バイパスが10%前後であることに対しBPD/DSでは40%程度であると報告されています。手術関連死亡率もバンドの0.2%,バイパスの0.5%に対しBPD/DSでは1%程度と報告されています。
【BPD/DSの効果】
繰り返しになりますが減量効果は最も強力です。超過体重減少率、つまり余分な体重をどれだけ減少させる力があるかというと概してバンドが45%スリーブが60%バイパスが75%であるのに対しBPD/DSでは80%減少させることができると報告されています。また2型糖尿病を治癒または改善させる力も最も強力であると報告されています。